IoBという言葉をご存知でしょうか?
Internet of Behavior、もしくはBodiesの略となり、アメリカのIT調査会社のガートナーはこのIoBを2021年の戦略的テクノロジートレンドに選出しました。
IoBの前身となるIoT-Internet of Thing-「モノのインターネット」という言葉は、2010年代急速に広がり、人々の日常に浸透していきました。従来は、コンピューター同士でつながっていたインターネットが、日常生活にかかわる「モノ」とつながることによって、家電やスマートスピーカーなど、IoTを体感する機会は増えていったように思います。
2020年代では、このIoTで蓄積したデータをもとに、IoB-Internet of Behavior/Bodies-つまりは人の動きに着目した「行動のインターネット」が新たなビジネスとなるのではないかと推測されています。本記事ではこのIoBがどういうものなのか、今後どのように私たちの日常に浸透していくのか、考えていきたいと思います。

こんな方は読んでみよう!
✓ IT系のフリーランス及び正社員エンジニア
✓ IoTについて知っているが、IoBについては知らない
✓ 最先端技術に興味がある


IoBとは

前書きでは、IoBのことをInternet of Behavior、もしくはBodiesの略と称しましたが、ガートナーがIoB、とさしているのは「Behavior」となります。直訳すると「動作」となり、人間の動きや行動をデジタルで追跡する、というイメージです。Bodiesとなると「体」なので、直接体に装着するウェアラブルデバイスやペースメーカーなどイメージがつきやすいと思います。2010年代でもIoBという言葉自体はありますが、どちらかというとBodiesのほうが注目されていた傾向があります。
ところが2020年代に入ってから、Behaviorの意味合いをもつIoBが重要視されはじめているようです。体に直接つけるもの、という単純な意味合いだけではなく、位置情報の追跡や顔認識など、個人に焦点をあてたテクノロジーが必要とされているということです。
では、どのようにテクノロジーで個人の行動を追っていくのかというと、ここで2010年代に蓄積されたIoTのデータが活躍します。

IoTとIoBのつながり

IoBはIoTの延長線上にあるという捉え方があります。
IoTとは先述した通り、Intenet of Thing「モノのインターネット」という意味ですが、IoBはこのIoTの成果であり、IoTから収集した情報をもとにさらなる進化を遂げるといわれています。
これまで私たちの生活の中に浸透したIoTによって、さまざまなデバイスが相互に接続し、大量のデータが蓄積されました。IoBはそのビッグデータを活用し特定の人間の行動に影響与える可能性があります。
例えば、今はSNSの使用状況、スマートフォンを介した位置情報、クレジットカードの購入履歴、また好きな食べ物など、多種多様な情報を収集できます。IoBでは、それを私たちの行動パターンとして解析し、私たちの行動に影響が与えられるように、利用できるというのです。この人々の日常に関するデータを細かい粒に例えて「デジタル・ダスト」と称します。
また行動のデータを活用することによって、私たちの生活の改善となる場合もあります。ソフトウェア開発会社のBMCは、食事、睡眠パターン、心拍数、血糖値を追跡するスマートフォン健康アプリを提案しましたが、ただデータを蓄積するだけのアプリではありません。健康に偏りが出てきたときにはそれを警告し、より望ましい状態へ行動修正の提案ができ、またいつもより高い頻度でジャンクフードを購入している場合、そのデータが追跡され対象者と医療従事者に警告ができるアプリです。このように人間の行動にテクノロジーが介入することを可能にするものがIoBとなり、人間の行動や心理学の観点からデータを適切に理解して、新製品の開発や生活の促進に取り組みことを目的としています。

コロナ禍におけるIoBの可能性

ガートナーはIoBを2021年の戦略的テクノロジートレンドのトップに選出しましたが、実は昨年時点では5番目の位置にいました。1年でトップに躍り出た背景として、世界的に蔓延した新型コロナウイルスの影響があると推察できます。コロナは世界中のビジネスの状況をガラリと変え、それとともに必要とされるテクノロジーも変化していったのです。現在の私たちの生活のなかにもIoBの片鱗が姿を現すようになりました。
例えば、カメラに映るだけで発熱しているかわかる熱感知システムや、感染経路を辿るための位置情報の追跡、またマスクをしていながらでも顔認識ができるシステムなど、対象を「人」とするテクノロジーは、コロナが蔓延してからとても増えてきたように思います。
また海外の企業の一例として、センサーやRFID(非接触型通信)を使用して従業員が定期的に手を洗っていたかなどを判断したり、顔認識システムでマスクを着用しているかなどをチェックする、ということもありました。感染対策を守っていない場合はスピーカーで警告したりなど、行動を規制する場面もあったそうです。

IoBの懸念点

IoBは、私たちの生活をよりアップデートしてくれる反面、さまざまな懸念点があります。
インターネットが人々の行動に介入するということは、人々のプライバシー保護において、とても慎重にならなければいけません。どれほどの配慮がされるべきなのか?果たして、行動をコントロールされることは消費者が望むのか?など、議論点は多々あるのが現状です。例えば、テクノロジー研究者のクリッシーキッドはIoBの危険性について、BMCのブログで下記のように述べています。

「自動車保険会社はあなたの運転履歴を見ることができます。私たちはこれについては問題ないと判断ができます。しかし、保険会社はあなたが安全な運転手であるかどうかを「予測」するために、ソーシャルメディアのプロファイルについて精査する可能性もあります。これは疑わしき法外の動きです。」(日本語訳)

(出典)「What Is the Internet of Behaviors? IoB Explained」より

このように、利用方法によってプライバシーを侵害する可能性があり、線引きについてきちんと管理する必要があります。
そのため、人々の行動データの使用のみならず、行動に影響を与える可能性があるテクノロジーにおいては、プライバシーを侵害しない方法かつ十分な透明性を伴うことがとても重要となります。

IoBの未来

ガートナーは2025年末までに、正解人口の半分以上が少なくとも一つのIoBプログラム(商業または政府)の対象になると予測しています。
マーケティング視点でもこれ以上ないテクノロジーとなるため、企業はこぞって消費者の行動や傾向を把握しようとするでしょう。
また、このコロナ禍において、感染対策や経済回復のためのとても重要なテクノロジーでもあります。今後、ますます私たちがIoBを実感する場面は増えてくると思われます。
まだまだIoBの可能性は未知の領域です。IoBを活用しようとする組織が、より正しく適切な論理観で私たちの生活を豊かにしてくれることを願っています。

まとめ

今回はIoB「行動インターネット」について述べてきました。意識してみると、私たちの生活はすでにIoBへの準備が着々と進んでいるように感じます。ガートナーの予測の通りになれば、今後5年以内に人口の半分がIoBの対象になるというのですから、急速な技術の進歩に驚きます。また、テクノロジーの凄さ、便利さを実感するとともに、IoBがもたらす危険性についてもしっかりと頭にいれておく必要があります。
IoBの活用方法についてはさまざまな議論がされているのが現状となっており、今後どのように私たちの生活に浸透させていくのか、考えていくことが大切です。