東芝やトヨタ自動車、NTTなど24社は1日、量子コンピューターなど量子技術のビジネスへの応用に向け、協議会を設立した。業界の垣根を越えて産業化に取り組み、国際競争力の強化を目指す。
時事通信社「JIJI.COM」2021年9月1日
目まぐるしく発展を遂げるIT技術。いつ自分の仕事の内容が、最新の技術に置き換わるか、わかりません。その為に、エンジニアは、最新の技術を常に把握しておく必要があるといえます。昨今の注目を集めている量子コンピューターとはどのようなものなのか、解説していきます。
量子コンピューターとは?
スーパーコンピューターが約1万年計算する問題を、量子コンピューターは3分20秒で解いたと、Web検索大手企業が2019年に発表しました。従来のコンピューターで難しい問題を解く、いわゆる「量子超越」を達成したニュースは、広く伝えられました。量子の時代は、まだ20年後と言われている技術ですが、現在の環境を一変させるものと期待されています。
量子コンピューターといいますが、従来のノイマン型のコンピューターと根本から違う原理になっています。ノイマン型は、トランジスタの原理で 0,1 の計算をします。計算を早くするには、トランジスタの数と処理速度を早くする必要があります。それは、昨今のスーパーコンピューターの登場でも理解できます。今後も発展が続けばいいのですが、この仕組みもトランジスタを小さくすることに限界があることから、物理的な限界が見えはじめています。
量子コンピューターは、0と1ではなく、(0.0)、(0.1)、(1.0),(1.1)という4つの状態が存在できます。その性質を利用して、従来型のコンピューターより早く計算します。量子コンピューターは、0であり、1であるという重ね合わせの状態を利用しています。
これを作り出すための技術は、物質を絶対零度まで下げて、超電導にすることが必要です。量子コンピューターの写真をみると、驚かれた方もいるでしょう。あれは超電導の環境を作りだすための装置なのです。
量子コンピューターの種類
量子コンピューターはどのようなものでしょうか。確認していきましょう。量子コンピューターには、種類があります。
・量子ゲート型
・量子アニーリング型
の2つがあります。それぞれの特徴と仕組み、用途を紹介していきましょう。
量子ゲート型
量子ゲート型は、中国やアメリカの大手IT企業で研究が進められています。仕組みは、従来、研究されている量子の重ね合わせの原理を用いた方式で、古典コンピューターの論理ゲートのように、量子ビットに量子論理ゲートを作用させて計算を行います。対応するプログラムが開発できれば様々な用途に応用できる汎用型です。
量子アニーリング型
量子アニーリング型は、日本に製造業大手や、カナダのベンチャー企業で研究が進められています。
仕組みは重ね合わせの原理などの量子効果を徐々に変化させることでエネルギーの最も低い状態を最適解として得るもので、最適化問題をモデルに置き換え、アルゴリズムとして利用しています。主に組み合わせの計算などを得意としていると言われており、膨大な選択肢の中から最適な選択肢を探し当てる組み合わせ最適化問題(サンプリング、機械学習)に特化しています。
日本に初めて配置された量子コンピューターは、量子アニーリング型です。
量子コンピューターの用途
量子コンピューターは、どのような用途に使われるのでしょうか。効果が期待されている用途を紹介します。
効果が期待されている用途の例としては、
・材料開発
・暗号とセキュリティ
・機械学習とディープラーニング
の3つとなります。それぞれ紹介していきましょう。
材料開発
材料開発は様々な組み合わせの中から、新しい材料を発見します。これは、分子レベルの組み合わせとなり、無数の種類と組み合わせで考えられます。その組み合わせは、膨大な計算が必要になります。量子コンピューターを使えば、最適な材料の組み合わせを早く導出することを期待されています。
画期的な新材料の創出、バッテリー、食料など、産業のイノベーションに量子コンピューターは有用と考えられています。
暗号とセキュリティ
量子コンピューターがニュースに出た当初、膨大な計算を早く解析できてしまうことで、仮想通貨のセキュリティが解けてしまうという危惧がありました。これは素因数分解をおこなう暗号形式が、量子コンピューターが得意なことから言われたものです。
しかしながら、現在の量子コンピューターの性能では、暗号を解くことは不可能といわれています。今後は暗号とセキュリティにおいてさらに堅牢な暗号やセキュリティを作成することを、量子コンピューターは期待されています。
機械学習とディープラーニング
機械学習でよく使われる分野として画像認識があります。その画像に何が映っているのか、その解析にも有用です。
機械学習において、教師データがない場合に解の導出が難しい場合があります。また、データ不足により、十分な教師データが作成できない場合もあります。データの確保や解析は、一般的に多くの工数がかかると言われています。
ディープラーニングでは、計算量が膨大になるため、計算時間、消費電流が問題なります。
その解析を量子コンピューターが実施し、解析時間を削減することを期待されています。解析時間を削減することで、さらに複雑なモデルや演算に割り当てができるようになります。学習の精度が向上することが期待できます。機械学習やディープラーニングを使う上で、解析の時間を最小限にすることを期待されています。
量子コンピューターの今後
量子コンピューターの研究が活発におこなわれている昨今。今後の量子コンピューターの活用はどのようになっていくのでしょうか。現状の技術では、実際の社会ですぐには使用することはできないといわれています。予定では、さらに研究が進み、20年後に活用されることが想定されています。また、既存のシステムとの融合も考えられており、例えば、インターネットを介して、量子コンピューターの結果を確認することが考えられています。
まとめ
量子コンピューターを紹介しました。まだ発展途上ですが、非常に可能性を秘めた技術となっています。IoT/AIといった技術も、データが膨大になることが予測されている状況では、解析時間の短縮に大きく期待されています。
数年後には、Web上でつながったサーバーに量子コンピューターが使われているかもしれません。今後も注目の技術ですので、量子コンピューターの従来形式との計算の違い、量子ゲート型、量子アニーリング型の種類など、常に最新トレンドの状況を把握しておきましょう。