2021年9月1日、菅首相肝入りのデジタル庁が発足しました。行政のDX化を推進する役割として大きな期待を抱かれているようです。デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が溢れかえる今日この頃、「Society5.0」というワードが存在したことを皆さんはご存じでしょうか。

筆者は、とあることがきっかけでこのワードと出会い、その存在を認識しました。

DXはここ数年、あらゆるところで目にし、耳にし、ようやくデジタルというワードが自身に浸透してきた中、この「Society5.0」というワードはある意味、真新しいものであり、興味をそそられるワードでした。

今回の記事では、筆者と同じく、興味をそそられた方や、存在は知っていたけど理解まではしていなかったなぁという方々にもご理解いただけるよう、「Society5.0」が一体何者であるのか、何ができるようになるのか、強いてはフリーランスとして活躍していこうという皆様がどう捉えるべきなのか、解説しつつ、探ってみたいと思います。

そもそも「Society5.0」って何?

内閣府作成の『第5期科学技術基本計画』では、「Society5.0」は、「サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています。

つまり「Society5.0」に至るまでに、少なくともSociety1.0~4.0までがどこかに存在したようです。事実、内閣府によると、「Society 5.0は、Society 1.0からSociety 4.0に続く新たな社会を指す」と記載されています。順に追うと、Society1.0は狩猟社会、Society2.0は農耕社会、Society3.0は工業社会、Society4.0は情報社会と定義され、社会はこの順に従って進化・発展してきたとされているようです。そして、この先の進化・発展のために欠かせないものが「Society5.0」とされております。

何となく1.0→4.0まではしっくりきましたが、4.0→5.0への過程が最初は全く理解できませんでした。しかし、色々読み込んでいくと、以下の解釈が導かれてきました。

Society4.0で定義された情報社会は、インターネットやスマートフォンの普及やクラウド技術の確立など、通信技術の進化・普及により情報がどこでも手に入る環境が構築された社会であり、Society5.0では、手に入った情報を集約することでビッグデータとして扱い、さらにAIといった技術を用いて、より活用し、更なる価値を手に入れることができる社会であるという解釈です。

一見、世の中で言われているDXというワードと「Society5.0」は非常に近い印象もあり、政府が主導した同義のワードと思われる方もいるかもしれませんが、実は意味合いは全く異なります。

「Society5.0」を実現するための一つの手法がDXだと理解していただければ分かりやすいかと思います。

何ができるようになるの?

「Society5.0」を実現するための一つの手法がDXだとするならば、DX(=デジタル化)が実現された結果、できるようになることは何か?できるようになることが即ち、「Society5.0」なのでしょうか?その解釈は少し早急すぎるかもしれません。例えば、このコロナ禍で耳にするようになったリモートワークを考えてみてください。リモートワークが実現したということは、DXが実現できた結果であることは明らかですが、冒頭で述べた「経済発展と社会的課題の解決を両立する」ことでしょうか。少し違いますね。

「リモートワークが実現した結果、できるようになった何かがあり、その何かが経済発展と社会的課題の解決を両立する。」

そういった社会環境が実現されることが「Society5.0」の実現となります。

では、先に記載した「できるようになった何か」を具体的に挙げてみたいと思います。

医療・介護

情報社会の実現により、医療現場の情報や医療情報、リアルタイム生理計測データといった情報を手に入れることはできるようになりました。そこにビッグデータやAI、ロボットといった技術を組み合わせることで、オンライン診療やリアルタイムの健康診断、医療現場での自動介護などが実現され、経済発展と社会的課題の解決が両立されます。

(出典)内閣府作成 Society 5.0「科学技術イノベーションが拓く新たな社会」説明資料

交通

様々な技術革新により、電気自動車の開発が進み、自動運転が実現されるといった経済発展と、温室効果ガスの削減や渋滞緩和・事故減少といった社会的課題の解決が実現されることが「Society5.0」で実現された社会となります。
カーシェアリングの増加などによる人の移動が増加し、地方創生が実現されることも「Society5.0」で享受される新たな価値になるでしょう。

(出典)内閣府作成 Society 5.0「科学技術イノベーションが拓く新たな社会」説明資料

農業

自動化技術や情報通信技術の進展により、新たな農業スタイルが構築されることで、高齢化や後継者問題が解消されるだけでなく、市場情報や消費者情報を取得し、組み合わせることで過剰生産が抑止され、品種改良など農業技術の革新が進むことが実現されます。

(出典)内閣府作成 Society 5.0「科学技術イノベーションが拓く新たな社会」説明資料

その他、防災や教育、エネルギーといった人を取り巻く社会の中で情報技術の進展により、新たな取り組みが創出され、その結果、課題の解決が推進されることが実現されます。

そういった社会が実現されることが「Society5.0」が目指しているものということになります。

フリーランスがどう捉えるべきか?

「Society5.0」が何か、ということについてはご理解いただけたかと思います。

今後そのような社会が訪れてくる中で、フリーランスの皆様にとって影響があるのか、どう捉えていくべきなのでしょうか。

「Society5.0」が推進されたからといって、官公庁や企業におけるシステム刷新プロジェクトがなくなることはないでしょう。そういった点では、すぐに大きな影響を出すものではないと思われます。

ですが、今後、新たな社会を実現するための動きは確実に増えてくるものと思われます。結果的にはプロジェクトとしては増えてくることになりますので、フリーランスの皆様にとっては案件が増えてくる、ということが期待できるのではないでしょうか。

但し、留意すべきは求められるものは変わってくるということかもしれません。

エンジニアの領域では、従来はプログラムを製造することやクラウド環境を構築することが求められていましたが、「Society5.0」が推進される中では、AI技術であったり、センサー技術やビッグデータを取り扱うようなスキルが求められるようになったり、単純なプログラミングや環境構築ではなく、採用技術の検討など、アーキテクトに近いスキルを求められるようになる可能性が高いと思われます。

コンサルティングの領域では、システム化だけではなく、また新規事業や戦略だけではなく、両者を組み合わせた社会実現といった視点でのコンサルティングが求められるようになるのではないでしょうか。これまでは「ITコンサルタント」や「新規事業/戦略コンサルタント」といったことばで分類されていましたが、今後は「社会コンサルタント」や「ソーシャルコンサルタント」のような新しいワードが出てくるかもしれませんね。

まとめ

多くのプロジェクトや案件の話を聞くにあたり、目立つのは、やはり「DX推進」といったキーワードであり、「Society5.0」推進というワードを目にする機会は多くありません。

ですが、先にも述べた通り、「Society5.0」はDXが実現された結果、目指すべき社会であるため、将来的に発生する案件の背景には、この「Society5.0」が存在するという可能性は非常に高いと思われます。

DXコンサルタントは、現在でも増えてきていると感じます。事実、経歴書を拝見すると、「DX推進」といった強みや経験をお持ちのフリーランスの方も増えてきております。ですが、経歴書の中で「Society5.0」というワードを見かけたことはありません(笑)

改めて、この「Society5.0」で実現される社会をイメージしていただき、その中で求められるエンジニアリングやコンサルティングを目指していただけたら、フリーランスの皆様にとって、価値のあることではないか、と感じております。