この数年、テレビや新聞などでスマートシティという言葉を目にする機会が増えてきております。スマートシティは、以前こちらの記事でも取り上げた「Society5.0」の先行的な実現の場として、政府がその取り組みを支援しているものとなります。2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標(SDGs)とも密接な関りを持ち、この先10年間は注目すべきワードと思われます。
改めてこのスマートシティを解説しつつ、その市場規模やその中で活躍するためのヒントを探っていきたいと思います。
「Society5.0」についてはこちらの記事でも解説しているのでご参考ください。
スマートシティとは
スマートシティは、現在日本で導入が企画検討および推進されている都市計画であり、国の「第5期科学技術基本計画」において提唱された「Society5.0」の先行的な実現の場として定義されております。
スマートシティは、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理、運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。
(内閣府HP:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.htmlより)
元々スマートシティという言葉は、電気自動車の普及推進に代表されるような再生可能エネルギーの利用などの実現を目的に使われていた言葉ですが、東日本大震災などの自然災害や、昨今のコロナ禍を経て、現在の定義になっていったとされております。
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省など中心となり構成されたスマートシティ官民連携プラットフォームが発表したスマートシティガイドブックでは、都市や地域が抱える様々な課題を新たな技術を活用し、各分野・領域に高度なマネジメントを施すことで、その都市に属する市民幸福度を向上させ、新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域をスマートシティとしております。
国内における事例
スマートシティ会津若松(福島県会津若松市)
東日本大震災からの復興および地方創生を目指し、少子高齢化やエネルギー問題などの課題に対し、解決のためにICTを最大限に活用することを明言しております。
健康や福祉、教育の充実やエネルギー、交通など生活インフラの向上、企業やプロジェクトの誘致や観光など持続可能な街づくりのプロセスを具体的にイメージされております。
(出典:会津地域スマートシティ推進協議会「Smart City Aizu-Area」より抜粋)
Woven City(静岡県裾野市)
2020年1月にトヨタ自動車㈱から発表されたWoven Cityは、同社の東富士工場の跡地をベースに、居住する人々の生活をあらゆるモノやサービスで繋ぐことを目的にしたスマートシティとなります。ロボットやAI、MaaSやスマートホームといった最先端の技術を駆使して、リアルな生活を情報として活用し、未来の都市を創り上げていくというプロジェクトであり、2025年から居住開始を予定しているそうです。先に紹介した福島の事例とは異なり、今ある課題を解決するというよりは、日本全国でスマートシティを目指そうとする動きの中で、モデルケースとしての役割を担っているのではないでしょうか。
(出典:TOYOTA WOVEN CITY 公式HPhttps://www.woven-city.global/jpnより)
柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)
日本が抱える大きな課題と向き合い、早くからスマートシティ構想に取り組んでいたのがこちらの事例です。「課題先進国」とも呼ばれる日本が抱える課題①環境共生②健康長寿③新作業創造を実現すべく2000年代から取り組まれています。
2000年の土地区画整理事業が開始されてから、第1ステージ(2008年~2014年:国際キャンパスタウン構想)、第2ステージ(2015年~現在:イノベーションキャンパス構想)と、スマートシティ機能を拡充しつつ、公・民・学が一体となった次世代ライフサイエンスの産業創造拠点の開発を中心とした街づくりを進めています。
(出典:柏の葉スマートシティ 公式HP https://www.kashiwanoha-smartcity.com/より)
今回ご紹介したのは、代表的な事例になりますが、上記以外にもスマートシティ関連プロジェクトとして非常に数多くのプロジェクトが既に進行しております。
前述のスマートシティ官民連携プラットフォームにて、どのようなプロジェクトが進行しているのか、掲載されておりますので、是非、ご確認ください。
市場規模とキーワード
アメリカの調査会社REPORT OCEANが2021年4月に発表したレポートでは世界のスマートシティ市場は、2020年から2030年にかけて年27%超で成長し、2030年には1兆4,105億ドル(約150~160兆円)に達すると予測されています。
一方、国内の市場に関しては、少し古いですが2019年の㈱野村総合研究所の発表ではスマートシティプラットフォームの市場規模は2025年に1兆2,300億円になると予測されております。
この数字はコロナ前の発表になりますので、現時点ではそのニーズはさらに高いものになっていると思われます。
(出典:株式会社野村総合研究所 2019年11月27日 NEWS RELEASEより抜粋)
今後、大きな市場となる可能性のあるスマートシティですが、気にしておくべきキーワードがないものか、調べてみました。
※この記事はフリーランスの方々向けに発信している記事になりますので、実際に今後発生し得るスマートシティ関連案件という目線でピックアップしてみます。
※筆者はエンジニア経験があるわけではないので技術的な細かいことは粗いレベルとなりますが、ご容赦ください。
キーワード(1) スマートシティの類型
行政主導型とエリアマネジメント型の2つが典型例とされております。進め方としては大きく変わるものではないと思われますが、両者では提供されるサービスに差が出てくるように見受けられます。
行政主導型は、その名の通り地方公共団体が主導するものであり、サービス利用者は該当地域の全住民および外部から訪れる人ということになります。また、サービスも行政、防災、医療、福祉、教育、産業と人が生活するうえで関りの生じるものすべてが提供されるべきサービスとなります。
一方、エリアマネジメント型は、特定のエリアを対象としたものであり、地域まちづくり団体などが主導するケースが多いようです。サービスの利用者は、特定地区の住民や事業者となり、前者と比較し、行政などは含まれず、特定エリアの情報発信やエリア内のマネジメントに特化したサービス提供となるようです。
誰が主導しているスマートシティなのか、サービス対象者がどの範囲で、どこまでのサービス化が必要なのか、判断する一つの目安になるかと思われます。
キーワード(2) 都市OS
政府が作成したスマートシティガイドブックでは、以下のように記載されています。
「都市OSとは:スマートシティ実現のために、スマートシティを実現しようとする地域が共通的に活用する機能が集約され、スマートシティで導入する様々な分野のサービスの導入を容易にさせることを実現するITシステムの総称」
スマートシティで利用するシステム全般を一つのプラットフォームと見做して、都市OSと定義しています。その特徴は①相互運用(つながる)②データ流通(ながれる)③拡張用意(つづけられる)であり、従来の個別最適的なシステムの在り方では、おおよそ実現できないとされています。
防災は地方公共団体の独自システム、交通はサービス提供会社単位のシステム・・・という在り方では相互運用もデータ流通も難しいという見方ですね。
スマートシティ実現のためには、現状の可視化(As-Is)、取捨選択をしっかりと行いつつ、未来を意識(To-Be)したグランドデザインが描ける必要があることが推察されます。
また、地方公共団体が主導する場合は、兎角、これまでのシステムや運用を変えたがらないケースも多くあるかと思いますので、関係者を説得し、理解を得ることも非常に重要なポイントと思われます。
キーワード(3) セキュリティ・レジデンス
先述の通り、都市OSとして連携型のシステムを構築し、その中で様々なデータが流通することが必要になりますが、そのデータの中には居住者の情報などパーソナルなデータも当然存在します。スマートシティのセキュリティの考え方や対策に関するガイドラインも個別で存在しますので、機会がございましたら是非、目を通していただければ、と思います。
まとめ
過去にも当メディアでご紹介したMaaSやRaaSもスマートシティの中でも、導入されるようになりますし、その集合体が政府の提唱する「Society5.0」に繋がっていくことになります。
今後は、スマートシティ関連案件が増えていくと思われますし、これまで全く所縁のなかった領域でも「○○市スマートシティ対応」といったプロジェクトが発生することが推察されます。
今回ご紹介した話は触りにしかすぎず、非常に幅も広く、知り得ないことは沢山ありますので、これまでITコンサルタントやITエンジニアとしてご活躍されてきた読者の皆様には、是非、チャレンジしていただきたく存じます。
以下に、今回執筆にあたり参考にした資料を記載しますので、ご参考にしていただければ幸いです。
・スマートシティガイドブック ※内閣府HP上に掲載
・スマートシティのセキュリティガイドライン ※総務省HP上に掲載
・スマートシティ官民連携プラットフォーム 公式HP