2018年経済産業省による「DXを 推進するための新たなデジタル技術の活用とレガシーシステム刷新に関するガイドライン」や「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」が発表されてから、日本においてもDXという言葉が一般的になり、2020年11月にはデジタル庁を発足させることが発表されました。
一方で、新型コロナウィルスにより、日本のデジタル化が世界においても遅れを取っており、ビジネス上も大きな課題となっていることが明らかになりました。
では、日本におけるDXの現状がどのようなものであり、今後、どのように対応していくべきなのか、考えていきたいと思います。

日本におけるDXの現状

そもそも「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉は、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱した概念であり、その意味は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよりよいものに変化させる」となります。
ただし、この概念は、デジタルテクノロジーを活用した新規事業を創出することを意図したものではなく、デジタルテクノロジーを使って既存事業の在り方やプロセスを根底から変革させることを意味しております。ここまでお伝えすると日本におけるDXの現状は芳しくないものであろうと想像できますね。(特に変化を苦手とするのが日本ですから・・・※筆者の個人的見解です)
では具体的に日本におけるDXの現状を見てみましょう。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2020年9月に発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」では、日本は27位となっております。(2019年は23位)
アジア勢ではシンガポール:2位、香港:5位、韓国:8位、台湾:11位、中国:16位、マレーシア:26位となっており、日本はアジアの中でも遅れをとっていることがわかります。
同様に、大手コンサルティング会社のMcKinsey & Companyが実施した経営層向けのデジタルおよびインダストリー4.0に関する調査では、デジタルに対するビジネスリーダーの考え方という項目において、米国の経営層は「デジタルは有望な機会である:91%、デジタル推進の準備ができている:83%」と回答し、ドイツの経営層は「デジタルは有望な機会である:91%、デジタル推進の準備ができている:57%」と回答しています。一方、日本の経営層は「デジタルは有望な機会である:80%、デジタル推進の準備ができている:34%」と回答しています。認知はされているが、準備ができていないという結果が見受けられます。
その他、様々な調査レポートが出ておりますが、どのレポートにおいても世界と比べ日本のDXは遅れていると報告されておりますので、間違いはないのでしょう。
では、国内に目を向けた場合、どのような現状が見えてくるのでしょうか。
昨年の新型コロナウィルスの流行以降、デジタル・非接触型サービスが主流となったこともあり、サービス業や情報通信業においてDXが推進されていることはご存じのことと思います。
日経BP総合研究所イノベーションICTラボが発表した「DXサーベイ~900社の実態と課題分析」(2019年)の中で、DXを推進している企業は情報・通信サービス業が58.5%で1位、建設・不動産業が44.4%で2位、金融が38.5%で3位という結果が出ております。
Fintechなど世界的な視点では金融はもっと推進されていてもいい印象もありますが、少々地味な結果となっています。また、日本の強みでもある製造業も上位にランクインしておりません。この結果を見る限り、まだまだ日本の中においてDXに関するニーズは顕在化するレベルまで達しておらず、今後も成長が期待できると前向きに捉えたいと思います。
次の章では、なぜ日本のDXが遅れているのか、その原因を探ってみたいと思います。

DXに向けた日本企業が抱える3つの重要な課題

経済産業省をはじめとして、様々なレポートで日本の企業が抱えるDX推進に対する課題は報告されていますが、最大公約数的に取りまとめたものを筆者なりの見解でお伝えしたいと思います。
よく経営資源とは「ヒト・モノ・カネ・情報」などと言われますが、資源をどのように活用するか、どのように動かすか、基となるものが経営戦略に相当するかと思われます。日本においてDXが遅れている課題は、この経営戦略にもあると言われております。

①模索を続ける経営戦略

冒頭に伝えた通り、DXとは単にデジタルテクノロジーを活用した事業を始めることではなく、デジタルテクノロジーを使って既存のビジネスを変革させることを言います。
経済産業省の報告では、ビジネスをどのように変革していくか、そのためにどのようなデータをどのように活用するか、どのようなデジタルテクノロジーをどう活用すべきか、模索している企業が多いと指摘されております。
経営者からビジネスをどのように変革させるかについての具体的な指示がないまま「AIを使って何かできないか」といった指示が出され、組織の人間は経営者のニーズを実現するため、色々と検討し、検証を繰り返しますが、結局ビジネスの変革には繋がらず、無駄になってしまうケースも多いとされています。

➁ヒト:IT人材の不足

DXを進めていくためには、ユーザ企業内に自社の事業を理解しているだけでなく、システムに精通した人材が必要とされます。現在のビジネスとシステムを将来のビジネスとシステムに塗り替えていくためには当たり前の話かと思います。しかし、これまでの技術の移り変わりと多様化から、社内でそのリソースを抱えることが難しくなり、システム構築、維持保守についてはベンダー企業に委ねるというスキームが当たり前になっている現在、DXを進めるために必要な人材がいなくなってしまっているのが現状です。
また、既存のシステムの仕様を理解した人材も定年などにより少なくなっているという切実な問題もあります。
こういった経緯もあり、ユーザ企業内でIT人材を確保し、教育することが難しくなっております。日本ではIT人材の7割以上がベンダー企業に属していると言われております。この数値は、世界的にみると、実は異常な数値で、米国はIT人材の約7割、英国・フランスでも5割以上がユーザ企業に属しております。この辺りの数字を見ても日本のDXが遅れる理由が分かりますね。
自社のDX推進をベンダーにまるごと委託するのではなく、DX人材を社員またはフリーランスで自社内に取り込むことが重要だと考えられます。

③モノ・カネ:老朽化したシステムの存在

経済産業省が平成30年9月に発表した「DXレポート」にも詳細が記載されておりますが、日本の約8割の企業が老朽化したシステムを抱えており、また7割の企業がその老朽化したシステムがDXの足かせになっていると感じています。
老朽化したシステムを抱えるということは、様々な問題を引き起こします。顕著な例がシステムのブラックボックス化や年々上がっていく維持保守・運用費です。ビジネスの遷移に合わせてシステムも変える必要がありますが、もぐら叩き的な改修を行わざるを得ず、その結果、更にブラックボックス化が進んでいくといった悪循環を生み出しています。
日本では企業のIT関連費用の8割が既存システムの維持・運営に割り当てられていると言われております。いわゆる「守りのIT投資」と呼ばれるものです。
DXを進めていくためにはIT投資における「攻めのIT投資」が必要とされています。先にお伝えした悪循環を繰り返すことで運用費や保守費が年々高騰し、「守りのIT投資」ばかりが増えており、ユーザ企業のIT担当者は、「攻めのIT投資」に目を向けるどころか、この「守りのIT投資」を増やさないように試行錯誤を繰り返すことで精一杯という現状です。
巷では「2025年の崖」などと言われておりますが、ここではDXの推進についてお話したいので、これ以上の言及は致しません。

この他にも日本のDXが遅々として進まない理由は色々と挙げられていますが、上記の3点だけでも十分にご理解いただけたかと思います。

日本の企業がDXを実現させるためのカギ

正直、これまでの話をお伝えした筆者自身、日本の企業でDXを実現させるなんて無理なのではなかろうか、と感じてしまいます。経済産業省では、そうした不安を解消し、DXを進めていくため、「DX推進システムガイドライン」を策定しております。その中からカギとなるものをお伝えしたいと思います。

①経営戦略とDXの紐づけ

自社の経営戦略を実現するためのDXであることが重要です。さらには、自社の各事業分野にブレークダウンした事業戦略を実現するために、どのようなデータを収集・活用し、どのようなデジタルテクノロジーを使って、どのようなビジネスプロセスを構築するのか、を明確にする必要があります。
経営戦略や事業戦略と紐づけのされていないDXはDXとは言えませんし、よくある失敗事例の一つになる可能性が高いと思われます。

➁ユーザ企業内の体制構築

経営層が先述の経営戦略に紐づいたDXを推進するために強いコミットメントをもって臨むことはもちろんのこと、全ての事業部門が目線を合わせることが必須です。経営層とIT部門だけが理解し、事業部門は他人事という姿勢では成功はしません。
DXは既存の事業の在り方をデジタルテクノロジーによって変革させるものでありますから、事業部門がオーナーシップをもって仕様決定、受入検証を実施していく必要があります。またIT部門は全体管理をして推進していく必要はありますが、事業部門がなすべきこととの間にしっかり線は引きつつ、コミュニケーションが十分に取れるよう体制を運営する必要があります。

③システムの見える化とゴールイメージの具現化

DX推進のためには、ユーザ企業が現時点でどれだけの情報資産を保有しているか、を把握する必要があります。いわゆるシステム(情報資産)の見える化です。ブラックボックス化している老朽化したシステムになりますので、DX推進のために必要な判断を下すためには、システムだけでなく、現在必要としている運用費・保守費や関わる人材も含め見える化する必要があります。
その後、見える化された情報資産に対し、評価・仕分けを行い、仕分けされたものに対し、新たなデジタルテクノロジーの活用とビジネスモデルの設計を組み合わせることで今後のシステム刷新のゴールイメージが具現化されます。


DXを推進させるために必要なことは上記3点で収まるわけもないのですが、少なくともこの3点が実行されていなければ、「DXの実現は絶対に無理!!」と言い切ってよいかと思います。

まとめ

主に日本におけるDXの現状と課題についてお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。現状については、大方予想通りと思われた方も多かったかもしれませんね。ですが、諸外国と比較することで、新たな気付きがあったかと思います。
日本のDXはまだまだ夜明け前くらいでしょうか。今後、いよいよ本格化していくことが予想されます。そんな中で、本文でも記載した通りユーザ企業内にIT人材は足りていない現状があります。今後求められてくるのは、ベンダー企業ではなく、ユーザ企業側の立場で強力にDXを推進できる人材ではないか、と考えます。単純にユーザ企業のIT部門に加わるだけでなく、既存の情報資産の見える化から、ユーザ企業のビジネスプロセスを理解し、デジタルテクノロジーとの融合による変革を提言し、これまでシステムは他人事としていた事業部門と密接な関係性を構築し、巻き込んでいくことができるようなアグレッシブな人材は市場価値の高い人材となると思われます。
この記事をご覧になっているフリーランスの方々は上流工程に強みを持つ方々ではないでしょうか。機会がございましたら、視野を少し広げてみて、クライアントの経営戦略や事業戦略が何なのか、その中で既存のビジネスプロセスがどうなっていて、デジタルテクノロジーを融合させることでどう変化させることができるのか、その結果どのような事業貢献ができるのか、そんなところに目を向けていただけたら違った景色が見えるかもしれません。
皆様のキャリアアップやスキルアップの何かにお役に立てていただけましたら幸甚です。