本記事では、『クライアントとのコミュニケーションに苦戦していたり、良好な信頼関係を構築する自信がなかったりする』という方に向けてITコンサルタントとして働く上で知っておいてほしい交渉術「沈黙と雄弁」の使い方について紹介していきます。

筆者について:太田雄介/Ota Yusuke

受託系開発企業へWebエンジニアとして入社し、プログラミングを学んだ後大手人材系事業会社のECサイト開発での実績が認められ、同プロジェクトでプロジェクトマネージャーへ抜擢。
2020年にBTCへITコンサルタントとして転職し、現在は大手エンタテインメント事業会社のファンクラブサイトのWebディレクションを支援。

1.歴史家の格言「沈黙は金、雄弁は銀」の本質

「沈黙は金、雄弁は銀」

英国のとある歴史家の著書にあるこの言葉ですが、皆様はご存じでしょうか?
よく小説やドラマなどでもセリフに起用されますが、そういったフィクション作品の場合だと「沈黙(黙る)のほうが雄弁(語る)より良い」という意味で使われています。ただし、この表現だと実は大事な部分が抜けてしまっています。それはずばり「タイミング」です沈黙が雄弁よりも勝るのは、周囲の状況を判断し、沈黙すべきタイミングで相手に何かしら影響を与えたときだけです。常に沈黙していたら当然の如く雄弁には勝てません。そのため、この言葉の本質は「相手を感銘させるような雄弁よりも、沈黙すべきタイミングを知り、相手に影響を与えるほうが良い」ということです。

2.ITコンサルに一番必要なのはコミュニケーションではない

ITコンサルの仕事内容については本記事では詳しく触れませんが、主に「クライアントの課題解決」が挙げられますね。これからITコンサルを目指す方や現在生業としている方にも問いかけたいのですが、クライアントが抱えている課題をあなたならどうやって解決しますか?ちなみに私はざっくりまとめると以下のような流れで普段業務にあたっています。この中でも私個人が重要だと思っているのが交渉です。
交渉相手はクライアントだったり、開発ベンダーだったりと様々ですが、実はこの交渉の中でITコンサルが本当にやるべきは課題の精査やアドバイスだと思っています。なぜなら、ほとんどの現場だとプロジェクト内でビジネスとシステム両方の全体像をしっかりと理解しているメンバーは少数であり、表面的な課題とそれに対する解決策が提示されて初めて現状を理解する場合も多いからです。これにより、交渉の場におけるゴールは議論に勝つことではなく、深刻な課題の認知や今後の運用方針の合意などになってきます。そうすることで、場当たりな対応によって深刻な課題が潜在化してしまうことを予防し、クライアントから信頼される環境が整います。そのため、ITコンサルに必要なのは単なるコミュニケーションではなく、長期的に相手とWin-Winの関係を築けるような交渉力になります。

【個人的な課題解決フロー】
情報収集 → 事実確認 → 課題点の洗い出し → 解決策の立案 → 交渉 → 解決策の実施 → 課題解決

3.現場における「沈黙と雄弁」の使い方

よく現場だとクライアントからの相談で経営資源であるヒト・モノ・カネのどれかで行き詰まり、解決策がなかなか実施に至らない場合やビジネス要件の詳細を検討する場合があります。そのときも交渉力は必要となりますが、そこで個人的にオススメしたいのは交渉を進める戦略として「沈黙」と「雄弁」を8:2の割合で使い分けることです。
会議のファシリテーターなどでも必要最低限の発言に留めてください。「沈黙」の割合が多い主な理由としては以下の3つが挙げられます。たまに頑張って意欲的に発言するITコンサルを見かけますが、その発言がすべて要点を的確に捉えていないと全体の議論が前進しません。勘違いしてはならないのがITコンサルにとっては「話す」ことが目的ではありません。まずは相手の話をカウンセリングマインドで「関心を持って聴く」ことが大切です。その上で相手に考える時間を与え、自身の発言を反芻してもらうことで議論の軸がブレないようにします。
そして、意見を求められた場合は事前の情報収集で得た業務知識などを用いた「雄弁」で納得させ、再度相手に考える時間を与えます。これを議論の中で繰り返すとお互いに合意できるラインを探りやすくなり、相手との信頼関係も築きやすくなります。
ぜひ皆様にも一度試していただきたいのですが、あまり極端にやると無言で心配されるのでご注意ください。

【沈黙を多用する3つの理由
・客観的に議論を傾聴でき意見をまとめやすい
・相手に話す時間を与える
・相手に考える時間を与える

4.まとめ

各プロジェクトによって環境や状況などは違いますが、交渉において対峙するのは必ず人間です。相手の考えを理解しない信頼関係は成立しませんし、交渉次第では自身が働きやすい環境作りがいくらでも可能です。この辺をコミュニケーションの一言で括るのは簡単ですが、認識して実践するのは容易ではありません。今回は有名な格言に倣いITコンサルとしての交渉術をあくまで私個人の見解でご紹介してみました。少しでも皆様の業務がラクになることへ役立てば幸いです。