会社員とフリーランスの給与を比較すると、フリーランスの額面の高さを感じる方は多いでしょう。しかし、一方で会社員という立場で受けてきた保険などの恩恵は大きいものです。フリーランスへ転身する場合、手取りを下げないためには、会社員時代の給与の3~5割増しの売上を保つことが大切といわれています。
フリーランスになる前と後の環境の違いを認識しておかなければ想像よりも手取りが少なかったという事態になりかねません。本記事でフリーランスが報酬から納める諸々の税金や保険料について理解し、ご自身の単価(給与)設定に役立てていただければと思います。

会社員の福利厚生

フリーランスの手取りを考えていく前に、会社員時代に受けていた福利厚生面について確認しましょう。

・年末調整の有無
会社員の場合は各種税金の計算や支払いなどは、会社で行ってくれるため手間がかかりませんが、フリーランスは全て自分で計算をして確定申告を行わなければいけません。
日々の収入支出の管理も必要ですし、ツールを導入したり場合によっては税理士を雇ったりと金額と労力がかなりかかります。
確定申告に向けて、フリーランスとして働く前段階から環境を整えておく必要があります。


・社会保険料
会社が加入していた社会保険のうち、健康保険料と厚生年金保険料は、会社が半額負担してくれていました。社会保険は会社に勤めている方が入る保険ではありますが、会社員からフリーランスになった際は任意で継続できます。ただし、会社の半分負担はなくなるので、フリーランスは全額自分で支払わなければいけません。


・時間外業務の手当
会社員であれば、時間外の業務をすると残業代や休日出勤手当といった金額を上乗せする制度がありますが、フリーランスには基本的に時間外業務手当というものはありません。
会社の管理職に残業代がつかないのと同じように、自分の裁量で仕事ができるのがフリーランスという認識のため、時間外手当というものはありません。


・有給休暇

フリーランスには有給休暇がありません。

通常、会社員の場合有給が最大20日付与されるため、完全週休2日制であれば、実質11カ月分の労働で12カ月の給与をもらっているという計算になります。

給与明細には記載がありませんが、こういった側面も手取りに影響すると考える必要があります。


・退職積立金

正社員の場合は退職積立金の制度があり、退職時に受け取れるというパターンが多いですが、もちろんフリーランスであれば会社が積み立ててくれるということもないので、将来のことも自分できちんと考えなければいけません。

フリーランスにとって退職金代わりとなりうる「小規模企業共済制度」という制度に加入するなど、手立てを考えておくことは必要です。

小規模企業共済制度に加入するには、開業届の提出が必要となります。

詳しくは下記の記事もあわせてご確認ください。


・経費

経費とざっくりまとめましたが、業務上使用する設備やツールなどは、正社員であれば会社が用意をしてくれます。

本業のための仕事環境のほかに、事務回りも揃える必要があるので、意外とお金がかかるものです。

オフィスに出社するという方は、交通費などもかかります。

経費として計上すればいい、と思う方もいるかもしれませんが、全体的に収める税金額が減るというだけで、元から環境や設備を用意されている正社員よりも金額的な負担は大きいです。

フリーランスが支払う保険料

会社員時代に受けていた福利厚生面がどのようなものだったか理解したところで、フリーランスの手取りを調べる上で必要な保険料・税金についてご紹介します。

・国民年金保険料
会社員でいう「厚生年金保険」となります。会社員や公務員など、厚生年金保険に加入していない方は加入必須です。
令和2年度は16,540円/月 納付義務があります。
なお、厚生年金は国民年金に上乗せで給付されますが、国民年金のみだと40年間納付した場合でも年金受給時に約65,000円/月なので、将来的にそれだけだと心配だという方は「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「国民年金基金」のような上積み制度を利用しましょう。


iDeCo(個人型確定拠出年金)

自分で申し込み、掛金を運用できる私的年金制度となります。

最低金額5,000円から、1,000円単位の掛金調整が可能となり、掛金と運用で得た利益の合計額を受け取ることができます。また、掛金は所得控除対象、受け取った給付金は公的年金等控除・退職所得金控除となるため、税金面での対策にも有効です。

なお、基本的には60歳からの受け取りとなること、また自分で金融商品を選択するため、選んだものによっては大きく利益を得ることもあれば、元本割れのリスクもあります。


国民年金基金

国民年金にプラスして加入できる年金制度となります。

先に述べたように、会社員の方には厚生年金がありますが、フリーランスだと厚生年金には入れないので国民年金に加入しなければいけません。しかし国民年金だけでは将来的にも年金支給額が足りないため、フリーランスのための厚生年金に代わるものが「国民年金基金」となります。

国民年金基金には、地域型と職能型の二種類あり、フリーランスの方は基本的に地域型国民年金基金に加入をします。

なお、国民年金基金では支給期間や掛金様々なタイプを組み合わせることができます。あまり金額に余裕がないときは少額でスタートし、余裕が出てきたら増額するなど、途中で掛金を変更することが可能です。

こちらも掛金は所得控除対象となります。ただし、受け取る年金については公的年金等控除対象となりますが、所得税はかかります。

デメリットとしては、脱退・解約において一時金の受け取りは不可能となるため、無理のない範囲での運用が必要となります。また、インフレが続くと年金額において物価の上昇は加味されていないため、実質的に支給額の価値が下がってしまうリスクがある、ということも頭にいれておきましょう。


・国民健康保険料・任意継続健康保険

先に述べたように、会社員時代の健康保険を継続する方法もありますが、基本的には国民健康保険への加入が必要となります。会社を退職した翌日には健康保険の資格を失いますので、退職した日から2週間以内に国民健康保険の加入手続きが必要です。

国民健康保険料については住んでいる地域や所得、世帯人数などで変化するので各自治体の情報を確認しましょう。

ただし、扶養家族がいる場合は国民健康保険だと家族分の保険料を支払う必要があるので、会社員時代の保険を任意継続したほうが安くすむ場合もあります。健康保険の任意継続の場合、保険料は加入者1名分となります。

保険料は各都道府県が定めた料率に退職時の報酬月額を乗じた額となるため、各都道府県のHPなどで確認しましょう。(※40~64歳の方は介護保険料が加算されます。)

また、任意継続には期間や条件があります

会社員時代の保険を任意継続できる期間は最長2年、継続して2カ月以上の被保険者期間が必要となり、退職後20日以内に「任意継続被保険資格取得申出書」の提出が必須となります。

提出先:自宅住所を管轄する協会けんぽ支部


保険料支払いを一日でも滞納してしまった場合、継続は不可となるため注意しましょう。
今の保険料高いなぁと感じている方は、下記記事をご覧ください。今入っている社会保険が問題ないかわかるはずです。

フリーランスが支払う税金

・所得税
年間の所得(1月1日~12月31日)に対して課せられる税金となります。
年収から経費や控除を差し引いた金額が課税所得金額となり、そこから所得税を算出します。税率が5%~45%とあり、所得が高いほど課せられる税金も高くなります。
所得税が高くて困っている!という方はもしかしたら、平均課税制度で負担を抑えられるかもしれません。詳しくは下記の記事にあるので、こちらも合わせてご確認下さい。

・復興特別所得税
2013年から東日本大震災の復興に用いられる「復興特別所得税」も納税義務があります。こちらは所得税額に対し2.1%課して算出します。所得税を納めている方はともに納付義務があるので、あわせて確認しておきましょう。


・住民税
住民税は道府県民税(東京都民は都民税)、市町村民税(東京23区在住の場合は特別区民税)のことをさします。
毎年6月から4回(6月末、8月末、10月末、1月末)に分けて支払いをします。所得税の確定申告を行った後、その情報をもとに住民税が算出されるので別途で住民税を申告する必要はありません。

・個人事業税
個人事業税は地方税の一種で各都道府県から納税通知がきます。課税対象は定められた70種の「法定業種」となり、フリーランスエンジニアはクライアントとの契約形態により課税対象になるかならないか決まります。
まず、業務委託契約として一社のクライアント先に常駐して業務を行っている場合は、報酬が給与形態であること、会社の指示に従っているということもあり、一般的な会社員と働き方が変わらないため課税対象にはなりません。
しかし、同じエンジニアとしての仕事であっても契約形態が請負の場合は、前述した「法定業種」でも定められている「請負業」にあたり、課税対象となります。
支払う税金が変わるため、契約形態についてもよく確認しておきましょう。

・消費税
消費税は、年間1000万収入がある場合納税義務が発生します。1年目の時は前年の収入がないので自動的に控除されますが、2年目から売上が1000万を超えた場合は消費税を納めなければいけません。
なお、クライアントに請求書を送る際、労働力を提供しているため消費税も請求することが可能です。年収が1000万円ない場合でも、クライアントへの消費税請求はできます。まだフリーランス駆け出しの方であれば、消費税に関してはあまり負担に考える必要はありません。

手取りシミュレーション

上記のように税金・保険料が額面から引かれると分かったうえで、実際に手取りがいくらくらいになるのかシミュレーションします。

世田谷区在住 独身男性の場合

月額単価:60万 年収:720万 経費:30万

所得  = 年収 ー 経費

所得 6,900,000円

税金・保険料

・青色申告控除申請

・個人年金保険料年間240,000円支払 含む

所得税556,500円
住民税503,200円
国民年金198,480円
国民健康保険611,055円

手取り収入 = 所得(年収 ー 経費)ー(各種税金・保険料)

手取り収入 5,030,765円

まとめ

会社員時代は保険料や税金はお給与から天引きされるのが通常なので、何がどれくらいひかれてるかあまり意識することがないかもしれません。また、あらかじめ保険料や税金が引かれるという事は手取り額がパッとみただけでもわかります。

しかし、フリーランスは一度振り込まれた報酬から保険料や税金を引かなければいけないので、正社員の時よりもおおく報酬をもらっていても、実際の手取りが減ってしまうといった事態になるかもしれません。税金や保険料については、将来のことも考えて設定することが大切です。将来のことも考えたいけど、今はお金がないし…という事態にならないためにもあらかじめどれくらい保険料や税金がひかれるのかシミュレーションしてから、クライアントに提示する単価を決めることが大切です。


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